みなさん、こんにちは。
現役オンコロジーMRのゆってぃーよ。
皆さんの会社もやっている事でしょう。
「症例確認」
私もサラリーマンですので言われるがまま、やっていますよ。
先日、ある癌患者さんに担当している抗がん剤が投与された症例確認をしました。
そこで考えさせられる事がありましたので書いていきますね。
80代後半の高齢癌患者に自社医薬品が投与されて無条件で喜ぶ営業所長ちゃん
高齢癌患者さんに担当している抗がん剤が投与されたので、症例報告を所長にしました。
「よくやった!高齢者だから副作用を特に気付けてフォローするように」だって。
この所長の発言は完全な間違いでは、ないけど何かスッキリしない。
大抵の抗がん剤は高齢者の投与は慎重投与になっている。
なので、うちの所長ちゃんも「副作用に気をつけて」という枕言葉をしっかりと付けたんだと思う。
ただ全ての癌患者において抗がん剤が投与されれば「よくやった!」という評価になるのは疑問が残る。
これが本音と建前なんだろうな。
高齢者に抗がん剤投与する事が必ずしも正しい事にはならないと悩む医者
80歳代後半の癌患者さんだけど、ある癌に罹患して2年。
ステージⅣで手術不能と診断された。
標準的な治療を一通り施したけど残念ながらPD(病態進行)。
まだPS(全身状態)が良く臓器機能もしっかりしている事もあり、その患者さんの家族の強い希望で後治療を実施する事になった。
それで今回、うちの会社の抗がん剤を使う事になったのよね。
患者さんとその家族の希望をつなぐ手助けが出来た事は素晴らしい事だと思う。
でも主治医の先生が悩んでいたポイントは2つ
①平均寿命をとっくに超えている高齢癌患者さんに抗がん剤をする目的。
→89歳の癌患者さんが高額で毒性がある副作用に悩まされながら続ける抗がん剤治療で90歳まで生きれたら幸せか?
それであれば標準治療も終わったし、もう緩和に入って安らかな余生を過ごした方が幸せなのではないか。
②高齢者に超高額な治療を施してもほとんどが国民皆保険で賄われるので医療財政が崩壊するのではないか。
→「長く生きたんだからもういいだろう」とはならない。でも高齢者に抗がん剤治療を無制限に実施する事で次世代(若い世代)にしわ寄せがくる。
若い世代の幸せよりも平均寿命を超えた高齢者を優先する事に違和感を感じる。
医学の勝利が国家を滅ぼす
先生と話をした時に以前、読んだ本を思い出した。
この本は日本赤十字社医療センターの化学療法科部長の里見清一(本名:國頭英夫)先生が書いた著書。
以前、この記事でも里見先生の著書を紹介しています。
「白い巨塔」の医療監修をしている國頭英夫先生の著書はオンコロジーMRは正座をして拝読した方が良い
「医学の勝利が国家を滅ぼす」ではかなり踏み込んだコメントが書かれている。
後期高齢者にどこまで限りある医療資源を投入するのか?
75歳以上は延命治療はせずに対症療法のみにするべきではないか?
この文章だけ、読むと「高齢者を見殺しにするのか!非人道的だ!」と言われるかもしれない。
でも「89歳のおじいさんの余命を1年伸ばして90歳にする事によって、今10歳の小学生の将来を絶望なものにして良い」という理論にはなって良いのだろうか?
今の医学の進歩(薬価高騰も含)、人口の高齢化と財政の枯渇の現状を多面的に考えていかなければならないと問題提起してくれている本だと思う。
高齢癌患者に抗がん剤が投与されて喜ぶ所長と悩むDrの間で考えるべき大切な事のまとめ
製薬会社は癌患者さんに抗がん剤が投与されれば「患者さんの為になった」と間違いなく言う。
もちろん、薬剤の開発によって救われる患者は多い。
でも医療資源には限りがある。
医学が進歩して、新薬の薬価がべらぼうな価格になっている。
効果が良くなっている分、治療期間も長くなる。
人の命はプライスレスと考えて後期高齢者にじゃぶじゃぶ新規抗がん剤を投与し続ける事が本当に正しい事なのか?
結果的に若い世代を地獄に落とし入れるようなような行動なのではないか?
この道徳観というか倫理観には絶対的な正解は無いと思う。
でも抗がん剤などの高薬価な薬剤を担当するMRであれば一度、考えてみる必要はあると思う。
今の日本はここまで、ひっ迫状態である事を自覚した方が良い。
専門的な薬剤ですらここまでの状況になっているんだから生活習慣病治療薬なんて議論にもならずにフォーミュラリーに飲み込まれていくでしょう。